我が家は、トマトの種だらけ。

二歳の娘との、毎日の暮らしを綴っています。

さよなら、トントン。

 

今日は、ハルと私にとって、

少し、特別な日でした。

 

ハルが生まれたその日から、

二年半続けていた授乳を、

お仕舞いにする日だからです。

 

我が家で授乳と言えば「トントン」。

ハルが五ヶ月くらいの頃から、

私が自分の胸の辺りを軽くたたくような仕草で

いわゆるベビーサインをしていたのですが、

そのときに無意識で口にしていた「トントン」という

言葉が、そのまま授乳を意味するようになりました。

 

この日のために、

カレンダーをつくり、

毎日一緒にシールを貼って、

お仕舞いの日を確認しました。

 

「もうすぐ、トントンはないないだね。

トントンはね、本当は赤ちゃんのときのものなんだ。

赤ちゃんは歯がないから、ごはんが食べられないの。

トントンが、ごはんの代わりなんだね。

ハルは、素敵な歯が沢山生えてきたでしょう。

ごはんも美味しいおいしいって、食べられるものね。

そうすると、じゃあもうトントンはなくても大丈夫だねって、

ないないになるの。皆、そうしてトントンとは、さよならするんだよ。」

 

折に触れて、色々の話をしました。

そうして、生まれ出てもなお続く奇跡のような繋がりに、

いとおしさを噛み締めながら、授乳を続けてきました。

 

二歳を過ぎたハルにとって、

授乳は栄養を得るということよりも、

心の拠り所としての役割が大きかったように思います。

 

ハルが三歳になるくらいまで仕事はせずに、

それまで、ハルが求めるうちは、

授乳を無理に止めることもしないつもりでいました。

 

ですが、この春から保育園へ通うこととなり、

お昼寝の際に授乳がなくても困らないように、

何より授乳のできない状況でも、

ハルが自分自身で不安や心配事と向き合えるように、

授乳を、お仕舞いにすることに決めたのです。

 

もっと早く、保育園へ通い始める前に

さよならできれば良かったのですが、

なかなか実行に移せず、間に合いませんでした。

ハルに辛い思いをさせることを忍びないと感じながらも、

結局のところ、本当に授乳を必要としていたのは

他でもない、私だったのかも知れません。

 

夜間授乳による寝不足をしんどく思う一方で、

二人で身を寄せ合うように過ごす時間が、

たまらなく幸せでした。

ちいさなハルを、ずっとずっと、

腕のなかに抱きかかえていたいというようにさえ思っていたのです。

 

「トントンがお仕舞いになってから、

もしもどうしてもトントンがしたくなったら、

お母さんが、ハルのことを沢山抱っこするね。

抱っこで、ぎゅうってするから、一緒にがんばろうね。

大丈夫、トントンがなくても、ハルは、大丈夫だよ。

心配なことがあって、泣いちゃうことも、きっとあるけれど、

ハルは、大丈夫なんだよ。」

 

ほとんど言葉にできていないような言葉が、

どれ程伝わっていたのかはわかりませんが、

ハルは、いつでも懸命に向き合ってくれていました。

 

そして最後の日、

授乳をお仕舞いにする日、

夜、一緒にシールを貼った後、

ハルは「だっじゅ」と言い、

私はハルをそっと抱っこしました。

するとそのまま、ハルは腕の中で目を閉じたのです。

 

悩んだ末、私はハルに、

「ハル、最後にもう一度だけ、トントンする?」

と、声をかけました。

 

「明日になったら、もうトントンはないないだよ。

今日で、さよならするんだよ。もう一度しなくて、大丈夫?」

すると、ハルは、「(だいじょう)ぶ・・・。」と応えました。

 

「そっか、ないないか。」

「ないない・・・。」

「うん、それじゃあ、おやすみ。ハル、ハルのことが、大好きだよ。」

 

薄く開いた目で私をじっと見つめていたハルは、

またすぐに瞼を伏せ、そうして眠りにつきました。

抱っこをしてほしいと言ったときから、

いえ、シールを貼ったときから、

もう、トントンとのさよならを決めていたのかもわかりません。

 

 

 

 

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薄暗い部屋で、

ハルの寝顔をぼんやりと眺めながら、

私は、ひとりで沢山泣きました。

ハルの成長を嬉しく思うのと同じに、

寂しくて、寂しくて、涙が止まりませんでした。

 

きっと、ハルは忘れてしまうでしょう。

「トントン」という言葉が、

私たち二人にとって、

とても大切な意味を持っていたことを。

けれども、私はずっと、忘れません。

 

これから、沢山のさよならを経験しながら、

ハルはハルの人生を生きてゆきます。

私はその度泣いてしまうかも知れないけれど、

それほどに幸せをもらっていたのだと思えるようで在りたい、

今はただ、そんなふうな気持ちでいます。

 

 

きっと、きっと、大丈夫。

 

ハルと、私を、

私たち母娘を、

沢山、たくさん満たしてくれて、ありがとう。

 

さよなら、トントン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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