名探偵お母さん『暗号を解読せよ』
これは、まるで無意識のうちにしていたことなのですが、
ハルに話しかけるとき、私は色々なものの名前の後に
「さん」という敬称をつけていました。
林檎さん、バナナさん、蜜柑さん、クマさん、
ゾウさん、冷蔵庫さん、等々。
あまり考えなしのことでしたので、
「さん」をつけるものとつけないものの境も曖昧です。
もともと、私自身が物を擬人化して捉えるような節があり、
また絵本の影響などもあって、自然にそのような言葉が
出たものと思われます。
「ハル、おさじさんに優しくよ。」といったように、
何かにつけ、ものを大切にするよう話すには、
なかなか功を奏しているかに思われる、この呼び方。
一方で、困っていることもあります。
まだ言葉のはっきりと出ないハルが、繰り返し耳にし、
比較的発音もしやすい「さん」の箇所ばかりを拾って話すため、
何を言うにも「しゃん(さん)!」になってしまうのです。
「しゃん、しゃん!」
(お母さん、林檎さん食べよう!)
それはもはや、暗号そのもの。
「しゃん」の前に来る微細な音の違いや、ハルの仕草、
その場の状況などに照らして、
言わんとすることを推理しなくてはいけません。
まさか、こんなことになるとは…。
事態を迷宮入りさせないよう、毎度、探偵気分で挑んでいます。