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我が家は、トマトの種だらけ。

二歳の娘との、毎日の暮らしを綴っています。

花森安治さんと愉しむおしゃれのこと

 

1946年夏に出版された『スタイルブック』の巻頭に、

花森さんの言葉が以下のように掲載されています。

 

「まじめに自分の暮しを考えてみる人なら、誰だって、

もう少し愉しく、もう少し美しく暮したいと思うに違いありません。

より良いもの、より美しいものを求めるための切ないほどの工夫、

それを私たちは、正しい意味の、おしゃれだと言いたいのです。」

 

戦後の、着るものはおろか食べるものにさえ不自由するような時代、

新しい布地を買うことはできなくとも、多くの人が持っている昔からの着物を

活用できればと考え創刊されたのが、この『スタイルブック』、

暮しの手帖』の前身とも言える雑誌です。

 

そこで紹介されたのが、花森さんが長年考えていたという

直線建ちによる洋裁の服でした。新聞などに広告を出すことで

宣伝をした、この『スタイルブック』は、全十八頁という薄さながら

とても大きな反響を呼んだそうです。

 

「たとへ一枚の新しい生地が無くても、

 あなたは、もつともつと美しくなれる…」

 

ちいさな広告の、このわずかの言葉に、

当時の女性たちはどれ程胸の踊る思いがしたことでしょう。

戦争という、今の日常からはとても想像の及ばない苦難を経験しながらも、

やはり、より良い暮しを、そのための装いを、愉しみたいと考えるのですから、

実におしゃれとは人の心の持ち様そのものであるように感じられます。

 

さて、我が家の『暮しの手帖』には、

『働くひとのおしゃれ』という特集があります。

これは、アメリカのサンキスト社の消費者サービス主任である

バーバラ・ロビンソンというご夫人のお話です。

夫人がお勤めに出ていらっしゃるので、働くひとという表現が

使われているようですが、内容はどなたにでもためになるような、

装うことそのものについて書かれています。 

 

「ねだんは少しぐらい高くても、生地のよい、

しっかりしたものをえらぶようにしています。

そのほうが型もくずれないし、シワにもならず、

手入れが簡単で、いつもきちんとしていられるからです。

そこへゆくと、安い服は、手入れがたいへんで、

しかも長もちしないから、かえって損ですね。

きちんとした服を着ていることは、人によい感じを、

あたえるだけでなく、自分自身も気持がしゃっきりとし、

自然に仕事や、動作にも自信がもてるようにおもいます。」

 

そうして、服や靴のえらび方から、

お手入れのことなどを話していらっしゃいます。

 

ハルと過ごすようになってからというもの、

もっぱら汚れてもかまわないような服ばかりを着ている私ですが、

おしゃれを愉しむことへの欲求が時折むくむくと湧いてくるときがあります。

今はめったにできませんが、それでも、お気に入りの服に袖を通し、

馴染みの革靴を履いて、大切にしている腕時計をつければ、

もう心持ちまで整うように感じられるのですから不思議です。

 

そして、全体いかほどのものを少しぐらい高いねだんとするかはさておき、

確かに、おしゃれを愉しむために、必ずしもたくさんの服は必要ないように思います。

一年にせいぜい三着買うかどうかというふうであれば、それ程お金もかけずに済みます。

子どもがいると、そう自分のことに出費もしていられませんから、

新たに買い足すことなく毎日の装いを愉しめるのであれば、

幾つかの服を大切に着ることの方が私には向いているようです。

 

どうせ汚れるのだから、誰も見ていないのだから、

そんなことを考えるとおしゃれなどどうでもいいような

心持ちにもなりそうですが、戦後随分貧乏をしたと言う祖母が、

いつも身だしなみを綺麗に整えていることをふと思い出し、

やはりこんなときでも少しくらいは気を配っていたいと考えたりもします。 

 

「どんなに、みじめな気持でいるときでも

つつましい おしゃれ心をうしなわないでいよう

かなしい明け暮れを過ごしているときこそ

きよらかな おしゃれ心に灯りを点けよう」

(出典 『スタイルブック』巻頭)

 

何もかもを失ったような辛く苦しい時代、

せめて心持ちだけは明るく、美しくと願い、

切ない程の工夫を愉しもうとした人々の姿は、

それだけでとてもおしゃれであるように感じられます。

 

 

おしゃれを愉しむというのは、触れる人目への礼節という役割も含めて、

自分自身の心が美しくあるよう願うことなのかも知れません。

 

ええ本当に、花森さんの仰るよう、ささやかでもできることを大切に

毎日を過ごせたら、どれだけ素敵でしょう。 

本当は面倒くさがりの私ですが、一寸は自分に自信を持って、

そうしてハルの憧れの女性でありたいとも思う今日この頃なのです。

 

 

 

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