封じられたドライヤー
お風呂上がり、私が髪を乾かしていると、
先に夫とお風呂を済ませたハルがやって来ます。
そして、私をじっと見上げて一言。
「いや!」
…今、ハルが最も苦手としているもの、
そのひとつがドライヤーです。
掃除機をかける音や、トイレの水を流す音、呼び鈴の鳴る音まで、
音のなかでも苦手としてきたものは幾つかあるのですが、
このドライヤーだけが未だに克服できずにいるのです。
「お母さん、髪の毛を乾かしているのよ。ほんの少しだから良い?」
と訊いても「いや!」。
「風さん風さんふいてきて、お母さんの髪乾かして。」と、
ハルの好きな絵本の一節を拝借して言いかえてみても「いや!」。
よもや私のいやがることはしないでしょう、というような目で
真っ直ぐに見つめられるので、どうにもいたたまれせん。
それで、仕方なくドライヤーは諦めてしまいます。
脱衣場のドアを閉めればさほど大きな音でもないので、
わざわざ来なくとも居間で楽しく過ごしていて良いのよ、
と思うのですが、どうもそうはいかないようです。
これから秋も深まり、また冬にもなれば、
濡れた髪のままいては風邪をひいてしまいます。
ここはなんとか、ドライヤーとも早く仲良くなってもらいたいところです。
遊びに熱中していて音に気がつかないのか、たまに最後まで
しっかりと乾かすことのできる場合もあり、そんな日は、
急くことなくドライヤーを使えるありがたみをしみじみ感じながら、
お風呂上がりのわずかのひとときを満喫しています。